connect3『信仰と建築の冒険 ヴォーリズと共鳴者たちの軌跡』

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吉田与志也著 サンライズ出版刊

編集:原  章 × 装丁:上野かおる × 組版:東浩美

お仕事の概要『信仰と建築の冒険 ヴォーリズと共鳴者たちの軌跡』

──家庭薬メンソレータム

「近江兄弟社」と聞いて、「ああ、メンソレータムの」と答える人はいまは少数派かもしれない。第二次大戦後しばらくまで、ちょっとした傷やひび、アカギレ、かゆみなど皮膚のトラブルがあったら、可愛い看護婦さんマークの丸い缶に入った軟膏を塗っていた。ハッカ(主成分はメンソール)の匂いが忘れられないこのメンソレータムを日本で製造販売していたのが近江兄弟社である。(いまはロート製薬に権利が移っている。)

──人気のバイブルクラス

明治38年(1905)、ウィリアム・メレル・ヴォーリズはキリスト教布教を目的として滋賀県にやってきた。近江八幡にある滋賀県立商業学校の英語教師の職が得られたのである。放課後、許可を得て自宅でバイブルクラスを始めた。生徒に声をかけたところ、初回になんと45人が集まった。やがてバイブルクラスは百人を超えるまでになる。アメリカからやってきた若くフランクなヴォーリズは、たちまち生徒の心を捉えたのである。

──ヴォーリズの“兄弟”となった吉田悦蔵

浄土真宗の強い土地柄ゆえヴォーリズを排斥しようとする動きが出てくるが、抵抗が強ければ強いほど信仰心は高まるもの、集まった生徒の中にはキリスト教の洗礼を受ける者も現れる。中でも熱心な生徒が吉田悦蔵だった。悦蔵はヴォーリズが英語教師を辞めさせられても片腕としてヴォーリズを支え続けた。

やがて二人が中心になって近江兄弟社がつくられ、メンソレータムの製造販売ともう一つ、建築の世界に乗り出していく。肥後橋にある大阪教会や、最近改築された大阪心斎橋大丸、京都四条の東華菜館、東京の山の上ホテル、さらに関西学院や神戸女学院のキャンパスもヴォーリズ建築事務所の設計である。

──著者は悦蔵の孫

『信仰と建築の冒険 ヴォーリズと共鳴者たちの軌跡』は、吉田悦蔵の孫にあたる吉田与志也氏が、自宅に残る書簡や写真など膨大な資料を駆使し、アメリカまで調査に出かけて、近江兄弟社という稀有な活動団体の軌跡をまとめたもの。私にとっては3冊目のヴォーリズ本だった。

──地方出版文化功労賞最優秀賞受賞

『信仰と建築の冒険』は滋賀県のサンライズ出版から刊行された。ヴォーリズの拠点は近江八幡で、吉田与志也さんが生まれ育った家も近江八幡にある。そんなことも手伝って、この本は2020年の地方出版文化功労賞の最優秀賞を受賞した。


上野かおるさんと東浩美さん

ブックデザイナーの上野かおるさんとは20年をはるかに超えるお付き合い。私は何か本の編集を担当したら、まず装幀を上野さんにお願いできないかと考える。必ず、こちらの想像をはるかに超える素晴らしい装幀ができあがる。本書の前に担当した『ヴォーリズ建築の100年 恵みの居場所をつくる』も上野さんが在籍している事務所にお願いした。これは造本もすばらしく、ヴォーリズ建築展の図録も兼ねていたので、みるみる版を重ねた。

そして、いつもていねいで美しい組版を、しかも素早く仕上げてくれる東浩美さんが、『信仰と建築の冒険』のDTPも担当してくれた。

次回

次回は、上野かおるさんにバトンをお渡しいたします。みなさま、お楽しみに!

お仕事のご相談など

原  章(編集) 
raven@kmf.biglobe.ne.jp

上野かおる(装丁)
メールアドレス kokerunikori@jagda.org
HP https://creatorsvalue.jp/user/336/

東浩美(組版)
azuma@ark.ocn.ne.jp

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